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小さな大事件

  • by土肥昌人(元MCSスタッフ)
  • 2013年6月10日
  • 読了時間: 9分

土肥君のMCS時代の思い出話!面白いので彼のブログから転載させてもらいました(土肥君ごめん)

【小さな大事件!?】vol.1 潜入

建築設計事務所には、大きく二つの業務がある。「設計」と「監理」である。

「設計」については、文字通りの解釈でよいかと思う。

そして「監理」。これは現場監督のソレとは大きく異なる。

現場の進み具合、下請け業者の総括など、現場監督が行うのは「工事管理」。

私たち建築設計事務所が行うのは、建物が設計図通りに出来ているかどうか、

施工について不備はないか、クライアント(建築主)に代わって検査する「工事監理」である。

私たちは通常、この「設計」と「監理」の契約を同時に行わせていただく場合が多い。

しかし、発注者が官公庁の場合、「設計」と「監理」は単独で契約されるのが一般的だ。

つまり、設計をしても現場での工事監理ができないのである。

そんな話を踏まえて・・・

私が以前勤めていた、大分の事務所での出来事。

市内の某交番を設計担当させてもらった私は、無事設計業務を終え、やがて工事が始まる。

発注者が大分県であったため、「監理」は大分県の職員が行うようになっていた。

しかし、やはり自分が設計担当した物件・・・

現場がとても気になる。

ちゃんと設計図書通りに出来ているか、

或いは自分が設計段階で抱いていたイメージどおりに出来ているか・・・

「監理」が事務所の業務として契約されていない以上、

サラリーマンであった私は勤務時間に現場に度々行く訳にもいかない。

しょうがないので私は、仕事が終わってから現場に行っていた。

ちなみにこの業界、仕事が終わるのが「午前様」になることは珍しくない・・・

とある夜。

仕事を25時位に終えた私は、その日も車で現場へと向かう。

建物は交番ということもあり、それほど大きなものではない。

仮囲いもしていなかったので、そのまま敷地内に車を止めた。

建物は鉄筋コンクリート造の2階建て。

その日は2階のコンクリートの型枠がとれ、ようやく建物の全景が見えはじめたところだった。

私は建物の中に入り、部屋の大きさや廊下の幅に問題はないか調べていた。

その時である。

一台のパトカーが、赤色灯を回しながら現場の敷地に入ってきた!

【小さな大事件!?】vol.2 包囲

その日はたまたま大学時代の仲間と現場に行っていた。

酒を交わしながら、朝まで建築を熱く語る私の大事な仲間だ。

パトカーが敷地に入ってきたのは、私たちが現場についてほんの10分足らずの出来事だった。

別に後ろめたい事はしていないとはいえ、私たちの行動は明らかに不審者であり、また間違いなく

「不法侵入」

である・・・

「あ~ぁ、怒られるなぁ・・・」

とつぶやきながら、苦笑いで出口へ向かう。

そして外まで出て、私たちは目を丸くした。

既に建物のまわりを5~6台のパトカーが囲っているではないか!!

建物から出てきた私たちはパトカーのヘッドライトに照らされ、

気分はまるでとっつあんにまんまとしてやられたルパン三世である。

パトカーからぞろぞろと警官が出てきて、私たちの周りを取り囲む。

その数およそ10人余り!!

背筋のピンと延びた体格のよい年配の警官が、私たちをにらみつけ、叫んだ。

「何、しちょんのか!!」

【小さな大事件!?】vol.3 弁解

私たちはやや遠巻きに包囲された。

7~8名の制服を着た警官。

4~5名の紺色の作業服を着て帽子をかぶった人たち・・・

TVなどでよく警察犬を連れている人たちが着ている服だ。

あの人たちも県警の人だと思うが、どういった位置付けの人たちなんだろう?

工事中の建物を背に、円弧状に大きく取り囲まれた私と仲間一人。

二人ともすっかり「うろたえモード」。

二人は当時25歳。

逃げる気配がないことを悟ったのか、間もなく数名がズカズカとこちらに近づいてきた。

「何しちょんのか!」

と大分弁で怒鳴りながら、険しい表情をして近づいてくる警官に対し、すぐさま弁解を始める私・・・

だが、「うろたえモード」だったため、何から話したか今となってはよく覚えていない。

とにかく私はこの交番を設計担当した者で、

現場が気になって見に来ていたんだということを彼らに伝えた。

私の言葉の一字一句を、2~3名の警官がメモをとっていた。

名前、住所、電話番号、勤務先、勤務先の電話番号等々・・・

当然、一緒にいた仲間も同様に聞かれていた。

運悪く、その日私は一度家に帰って荷物を置き、その仲間の車で来ていた。

名刺はもちろん、財布すら持っていない状態・・・

ものの見事に手ぶらだった・・・

免許証も置いてきてしまっていたので、身分を証明するものが何もない。

「そっちは車運転して来ちょんのじゃけん、免許証があろうがえ?出しなさい。」

最初に私たちを怒鳴りつけたやや年配の警官が、一緒に来ていた仲間にそう言った。

すると、その仲間は

「(・Д・;)ハッ!?」

と目を丸くした。

どうやら彼はたまたまこの日、朝から免許証を忘れていた。

「(・Д・;)ハッ!?」

彼は再び目を丸くした。

と同時に、自分の車の助手席に駆け込み、ダッシュボードをガサガサとあさりはじめた。

何を出すのかと思えば、一枚の青い紙切れ・・・

それは、免許証不携帯の違反切符だった。

そう、彼はこの日、既に「免許証不携帯」で切符を切られていたのだ。

転んでもただでは起きない奴だ・・・

しかし、彼のそんな行動のおかげで、それまで張り詰めていた空気が途端に和やかになり、

ようやく警察の方々の表情も緩んできたのだった・・

【小さな大事件!?】vol.4 形式

警察の取り調べには、やはりマニュアルがあるのだろう。

いかにも「形式通り」というような雰囲気で、私たちは次のようなことをさせられた。

まず、壁に手をついて上から下まで身体のチェック。

次にポケットの中身を調べるため、全てのポケットを裏返しにするよう言われた。

それから靴の裏。

「靴の裏、見せて」

と言われ、一瞬

「え!?」

と驚いたのだが、

「靴を履いたままで足の裏見せなさい」

と言うので指示通りにした。

──後から県警の人に聞いたのだが、靴の裏に爆発物を隠していたり、

或いは放火などの場合、靴の裏に消し炭がついてたりしないか調べるのだそうだ。

一緒に来ていた仲間の車は、シートの隅からマットの裏、トランクの中まで念入りに調べられた・・・

皆さん、車のトランクは、いつも綺麗にしておきましょう(^ー^;A

【小さな大事件!?】vol.5 釈放

警察の方々に、一切の事情を話し終えた私たち。

設計していた時の県警本部、担当者の名前を言い、

「確認してええんかえ!?」

という、やや強調気味の質問にも屈せず、

「大丈夫です!」

と、更に強い返事で答える。

何とかその場は釈放(?)され、二人とも無事ことなきを得た。

帰りの車の中で、私たちは大いに盛り上がった。

警察に囲まれた時、逃げてたらどうなってただろう?

どういった状況で警察は現場に来たのだろう?

夜中の現場チェックはこの業界でたまに聞くが、他の人は警察に囲まれたことはないのだろうか?

等々・・・。

好奇心を働かせ、様々な状況を想像する。

人様の家を設計する立場の私たちにとって、これはある意味、「職業病」なのかもしれない。

次の日、会社に出社した私は、社長に夕べの出来事を報告。

当然、厳しく怒られる。

特に、守秘義務のある私たちの仕事。それなのに第三者を連れて行ったことに大きな問題がある。

間もなくして、県警本部の担当者からTELが入る。

「聞いたで~」

こちらは、いつになく穏やかな口調だった。

「気持ちはわかるが、あげな夜中に行っちゃいけんやろ~」

からかうように言う。

「それよりもちょっと聞きたいことがあるんやけどなぁ・・・」

突然、その担当者が私に聞いてきた。

「あんた、現場の事務所に入ったりしてないよなぁ?」

突飛なこの一言。

はっきり言って現場事務所になど、興味はない。

なので、何度も現場には行ったが、一切現場事務所には近づいていない私。

一体何のことなのか・・・?

その時の私には検討もつかなかった。

【小さな大事件!?】vol.6 誤解

「ちょっと現場にきて欲しいんやけど、時間あるかえ?」

県警の担当者が言う。

「タイル張範囲も確認してほしいし。」

『も』という言葉が気になったが、とりあえず私は工事現場へ行くことにした。

その交番の外壁は、煉瓦風二丁掛タイル(227×60のタイル)で仕上げるよう、設計していた。

しかし、部分的にコンクリート打ち放しの箇所があるため、

「意匠(デザイン)的に重要なところだろうから、

間違いがないか現場監督と施工図を見ながら確認してほしい」と気を使ってくれたようだ。

はっきり言えば「業務外」なことであるが、こういった場合、我々はすすんで動く。

何よりもいい建物を作ってクライアントに喜んでもらうことが一番の目的・喜びだからだ。

もちろん、社長の了解を得た上での判断である。

さて、そんなこんなで私は現場に到着した。

既に県警担当者は現場についており、現場監督と立ち話をしていた。

車を止めた私は、挨拶をしながら二人の元へ。

二人は私に気付くとニヤッと笑った。

「夕べ大変やったらしいね~」

と現場監督が話掛けてきた。

思わず照れくさくなり、頭をかく。

「ところで、現場には前から来ようった!?」

「え?まぁ・・・ちょくちょく・・・」

私のその台詞を聞いて、二人の顔が突然険しくなった。

すかさず県警担当者が言う。

「あんた、現場事務所の電話を使ったりしちょらんかえ!?」

「は?(・Д・;)」

思わず目がテンである。

詳しく話を聞いてみると、どうやら現場事務所に忍び込んだ人間がいたらしい・・・

しかもその人間は、事務所の電話をつかってダイヤルQ2をかけまくっていたというのだ・・・!

現場監督の話によると、月1~2万の電話代が、

その月は10万以上あったらしく、被害届を出していたとのコト・・・

もしかしたら、そんな事があったからこそ警察がこの現場を巡回してて、

そして夕べの騒ぎになったのかもしれない・・・

しかし、大いなる誤解である。

今となっては懐かしいダイヤルQ2。

そんなモン、電話したことないっちゅうね~ん!ヽ(`Д´)ノ

まぁこの件については、県警の担当者も現場監督もそれっきりで、執拗に尋ねたりはしなかった。

恐らく、たまたま被害届を出した直後の出来事だったので、面白可笑しくからかわれたのだと思う・・・

【小さな大事件!?】vol.7 終章

そんな事件があって1ヵ月あまりが経った。

ある夜、私は社長に連れられ、二人きりで飲みに行った。

スナックのカウンターに並んで座る私たち・・・

ふいに、社長がニヤッ( ̄ー ̄)と笑って私の方を見た。

「あの時のことなぁ・・・」

  「?」

「君の『建築』に対する姿勢がわかって、俺は本当はうれしかったぞ」

思いがけない一言だった。

社長曰く、“建築設計”という仕事は、時に“好き”でないと乗り切れない事がある。

“好き”であるからプライドを持って、こだわって出来る仕事。

だからこそ、どうしようもないほど楽しい時がある。

今回の事件で、私のそんな「想い」を再認識できたことが、

社長にとっては何よりの喜びであったようだ。

私にとっての第二の故郷・大分。

彼の地を離れ、地元・広島で独立した今となっても、「愛すべき我が師匠」だ。


 
 
 

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